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『上方芸能』と文楽への誘い―国立文楽劇場四月公演から
推薦文 : 経済学部 青木 郁夫 教授
雑誌 『上方芸能』

 図書館にはさまざまな書籍や資料が収められている。諸種の定期刊行物、雑誌もある。そのなかに『上方芸能』がある。雅の芸能としての「能」も、俗の芸能である歌舞伎、文楽、落語などの大衆芸能の多くが上方に生まれ育った。『上方芸能』は、こうしたいまや伝統芸能といわれるジャンルのものだけでなく、一頃、衰退期にあった上方落語などの再興を支え、上方における芸能活動を大いに奮い起こすことを意図して刊行されたもののようである。『上方芸能』に最初に出会ったのは、今からもう35年以上も前になる私の学生時代に古本屋の店先に販売のために積まれた新刊を手にした時であった。歌舞伎や文楽に足を運ぶようになり、

雑誌 「上方芸能」
上方落語をきく会 「上方芸能」編集部 

さらに「能」の世界をも覗こうとしたとき、『上方芸能』を再び手にするようになった。その劇評や芸能活動の近況を読むのも一興、案内に誘われて観劇に及ぶも一興。『上方芸能』を採り上げたのであるから、あわせて、文楽へと読者諸氏を誘ってみよう。

 文楽すなわち人形浄瑠璃は、歌舞伎とは異なり、浄瑠璃、太棹三味線、そして人形遣いの三者それぞれの役割とそれらが融合する協演=競演がみどころ、ききどころである。遠い昔、学生時代にいまはなき道頓堀の確か朝日座に初めて文楽を見にいった時には、浄瑠璃を記した「床本」をみながらも、訳が分からず眠ってしまった記憶がある。しかし、改装後の国立文楽劇場では、オペラにおいて歌詞が、中国の京劇などにおいてその台詞が字幕で写し出されるように、舞台上方に浄瑠璃が写され、「床本」に目を落とすことなく、鑑賞できるようになっている。また、歌舞伎公演と同様、懇切丁寧なイヤホーン・ガイドも用意されているので、初見であっても内容を理解しながら文楽を楽しむことができるようになっている。
 さて、国立文楽劇場四月公演は「義経千本桜」の通し狂言であった。歌舞伎でも、「義経千本桜」は、渡海屋大物浦の場――最近では松島屋片岡仁左衛門による碇知盛の圧倒的な演技に魅せられた―、すし屋の場、そして沢潟屋市川猿之助による早替わりや宙乗りのケレンで知られる河連法眼館の場などがしばしば演じられており、それとの対比でもぜひみておきたいものだった。竹田出雲らの手による「義経千本桜」は「菅原伝授手習鑑」、「仮名手本忠臣蔵」と並ぶ人形浄瑠璃三大名作といわれる。千本桜とはもちろん吉野山の桜をあらわす。この浄瑠璃にのってさまざまな人間の、あるいは狐の親子の情、兄弟の情が語られ、そして舞台にくりひろげられ、時に涙さえさそう。それはけっして封建制的な主従の関係に規定されたものばかりではない。
 浄瑠璃語りはまだまだ分からないが、分からないながらも、やはり竹本住大夫がたっぷりと聞かせる。浄瑠璃は時に役ごとにそれぞれ別の大夫が語ったり、声の高低に応じて複数の大夫が語る場合もあるが、ドラマのクライマックスを、すなわち切りの場を、嫋々と 聞かせる大夫の技、力量には驚くものがある。
 三味線では鶴澤清治や鶴澤寛治のいわば老練な太棹の味わいもさることながら、中堅となった燕三あるいは若き清志郎の溌剌とした響きもまた心に染み渡るものがある。
 そして、なによりも、今回の公演を見た収穫は、人形遣い桐竹勘十郎の狐忠信であった。圧巻だった。狐と人間、いや人間に化けた狐とを遣い分け、自らの衣装の引き抜きによる早変わりをし、最後の宙乗りまで小気味よい大熱演であった。狐忠信の「初音の鼓」の皮となった母との別れの悲しみ、鼓を与えられ母と再会した喜び。文楽における人形遣いのさまざまな技、演出を楽しみ、味わうことができた。上出来、上出来、上々出来。勘十郎に感謝、感謝である。
 吉田玉男が逝き、残念ながら吉田文雀が衰え、吉田簑助が一人人間国宝としての技をみせるが、簑助は女役遣いであり、立ち役を遣う次の世代では玉女や勘十郎に期待が集まっている。「寿式三番叟」での吉田玉女と桐竹勘十郎の人形遣いの差違は、それぞれの役柄の違いを写しているのかもしれないが、際だっていた。玉女の玉男譲りの端正な、軸のぶれない踊りをみせる人形遣いとやや頭が動き軸がぶれて見えるほどの躍動的な踊りをみせる人形遣いとの。しかしながら、私には、玉女の人形は確かに動いてはいるが、勘十郎の人形のようには踊ってはいないようにみえた。
 「義経三本桜」の狐忠信の鮮やかな人形遣いといい、三番叟といい、勘十郎の奮闘ぶりが、そして、その力量がぐんと増した様が見る者を感動させた。満足のいく舞台であった。
 「何でも見てやろう」の意気込みで、ぜひ、文楽劇場に足を運ばれることをお勧めしたい。きっと『上方芸能』はその手引き書となるであろう。

雑誌紹介

雑誌 『上方芸能』

1968年創刊。上方(京阪神)の芸能全般を取り上げる雑誌。ジャンルは能・狂言、歌舞伎、文楽、日本舞踊、上方舞、邦楽、現代演劇、歌劇、落語、漫才など。
―雑誌『上方芸能』サイトより

 

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