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おすすめの一冊 本学の教員や図書館員のおすすめの本を紹介します。
   

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携帯を捨てて、本を読もう
推薦文 : 図書館長 和田 渡 (経済学部 教授)


 10代の頃、「15歳から22歳の間にどんな本を読み、どんな人とつき合うかで、その人の生涯が決まる」という意味の文章を読んだ記憶がある。この時期の本や人とのつきあいが、後々まで強烈なインパクトを残すということだ。
 青春時代の読書は、建築で言えば、基礎工事にあたる。活字とのつき合いは面倒で、煩わしい面もあるが、それは間違いなく生涯の土台を築く力となるだろう。
 読書はまた思考のレッスンでもある。レッスンを通して自分や他人の見方が変わり、社会観、世界観が深まる。読書は、人間の成長と飛躍を約束するのだ。
 これから何回かに分けて、皆さんにぜひ読んでほしい本を、思いつくままに紹介していこう。携帯をいじる時間があれば、その何分の一かを読書に割いてほしい。

自分に足りないものはなんだろう。読書とは自分と向き合う時間を持つということ。

 まずは、読書の効用から。読書が人間の顔を魅力的にし、内面的に成長させることを平明な文章で力説しているのは、ハイブロー武蔵である。『本を読む人はなぜ人間的に成長するのか』(総合法令、2000年)を読めば、読書の大切さがわかる。「やはり、人は、人間的に成長していくためには、絶対に本を読み続けなくてはならない。」(206頁)読書の大切さを熱く語るこの本を、まずは読書への招待本として推薦しておきたい。 

  長田弘の『世界は一冊の本』(晶文社、1994年)には、「本を読もう。/もっと本を読もう。/もっともっと本を読もう。」で始まり、終わる詩が収められている。そのなかの、「どんなことでもない。生きるとは、/考えることができる[・・・・・・・・・]ということだ。」というメッセージが印象に残る。長田弘には、『幸いなるかな本を読む人』(毎日新聞社、2008年)という味わい深い詩集もある。装丁もすばらしい。

 『察知力』(幻冬舎、2008年)は、8年ぶりに日本のピッチに立つ中村俊輔が自分の考え方やポリシーを言葉にしたものだ。ヨーロッパの屈強なプレイヤーに比べて、フィジカルな面ではるかに見劣りのする俊輔が、なぜ活躍できたのか、その秘密が記されている。「いつも先を見て、周囲を見て、空気を読んで、自分に足りないものは何かと察知して、準備しなくちゃいけないと、僕は常にそう考えている。」(16頁)「細かいことを感じるか、感じないか、考えるか、考えないかで、人の成長は違ってくる。」(28頁)俊輔の言葉は、体験に裏打ちされた人間の強さと賢明さに満ちている。

  小説や詩を読んでみたいが、何を読んだらいいのかわからないという人には、吉本隆明の『日本近代文学の名作』(新潮文庫、2008年)と『詩の力』(新潮文庫、2009年)がお薦め。吉本隆明は、老いてもなお精力的に考え続ける、日本を代表する思想家で、作家よしもとばななの父でもある。前者では、夏目漱石の『こころ』を初めとして、全部で24の名作が解読されている。後者では、谷川俊太郎、田村隆一といった詩人の詩の他に、中島みゆき、松任谷由美、宇多田ヒカルの歌詞などについて分析が加えられている。「松任谷さんの歌は、自分の個的な感覚を歌ったものではないように思う。客観的に都市の感性を眺めているような感じがする。自分の感じることも外から見ている。そのような、軽やかな自己相対化も、この都会的な歌手の魅力だろう。」(76-77頁)作品の理解と解読に、吉本という人間に特有の感性の魅力と、思考の力が反映している。

人物紹介

長田弘(おさだ-ひろし)[1939-]

昭和後期-平成時代の詩人、評論家。
早大在学中同人誌「鳥」を創刊、「地球」「現代詩」などにくわわる。昭和40年やわらかくなじみやすい表現によって、けんめいに明日への希望をつむぐ詩集「われら新鮮な旅人」、詩論集「抒情の変革」を発表。57年「私の二十世紀書店」で毎日出版文化賞、詩集「心の中にもっている問題」で平成2年富田砕花賞、3年路傍の石文学賞。21年「幸いなるかな本を読む人」で詩歌文学館賞。ほかに「死者の贈り物」、評論「探究としての詩」、エッセイ「本を愛しなさい」など。福島県出身。
”おさだ-ひろし【長田弘】”, 日本人名大辞典, ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://na.jkn21.com>, (参照 2010-03-19)

中村俊輔(なかむら-しゅんすけ)[1978-]

プロサッカー選手。セルティック(スコットランド)所属のミッドフィルダー(MF)。
神奈川県生まれ。幼稚園のころからサッカーボールに親しみ、小学生のときに本格的にサッカーを始める。全国高校サッカー選手権で準優勝。1997年(平成9)に横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に入団。1997年4月16日にJリーグ初出場。2007年スコットランド・プロサッカー選手協会年間最優秀選手賞、スコットランド・サッカー記者協会年間最優秀選手賞を受賞。トップ下(フォワードの背後に位置し攻撃を組み立てる役割を担う)に位置し、チームを操る司令塔を務める。
”なかむら-しゅんすけ【中村俊輔】”, 日本大百科全書(ニッポニカ), ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://na.jkn21.com>, (参照 2010-03-19)

吉本隆明(よしもと-たかあき)[1924-]

昭和後期-平成時代の詩人、評論家。
大正13年生まれ。次女によしもと ばなな。昭和27年詩集「固有時との対話」、28年「転位のための十篇」を発表。29年「マチウ書試論」を発表。30年代には「高村光太郎」「芸術的抵抗と挫折」などで文学者の戦争責任や転向を問い論壇に登場。既成左翼の思想を批判し六○年安保闘争では全学連主流派を支持。36年谷川雁(がん)、村上一郎と「試行」を創刊。以降、文学から思想におよぶ諸領域で独自の理論を構築し、「言語にとって美とは何か」「共同幻想論」「心的現象論序説」などを刊行。50年代には「マス・イメージ論」「ハイ・イメージ論」などを発表。東京出身。東京工業大卒。著作はほかに「自立の思想的拠点」「最後の親鸞」「夏目漱石を読む」「心的現象論本論」など。
”よしもと-たかあき【吉本隆明】”, 日本人名大辞典, ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://na.jkn21.com>, (参照 2010-03-19)

 

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