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おすすめの一冊 本学の教員や図書館員のおすすめの本を紹介します。
   

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活字は人間を鍛える ― 本を読んで、自分の頭で考えよう
推薦文 : 図書館長 和田 渡 (経済学部 教授)

 5月の光に新緑が映える美しい季節の到来だ。
 新刊書のなかから2冊を紹介しよう。
 森田 均の『自己分析する学生は、なぜ内定できないのか?』(日本経済新聞出版社、2010年)は、就職を考える学生のみなさんに貴重なメッセージを与えてくれる。著者は朝日新聞社勤務を経て、経営・受験・就職コンサルタントとして活躍中。「自分の中身を鍛えなければ始まらない」、この本の中心的な主張だ。そのためには、自分で積極的、主体的に考えなければいけない。就職活動は、自分の強みを知り、気づいた弱点を修正しながら自分を成長させる絶好の機会なのだ。モリタ式就活に刺激されたある学生はこう述懐している。「『自分で考えること』。先生に学んだことで一番自分にとって大きなことはこのことだったなと思っています。ときには辛いことでもありました。自分の足りない部分、弱い部分もたくさん発見しました。」(52頁)著者はこう述べる。「私の経験では、本をたくさん読んでいる就活生ほど、志望企業への内定率が高くなります。」(125頁)たくさんの本が読めるということは、好奇心が強い、関心をもつことが少なくないということだ。それが「考えること」に結びつき、自分を表現する力の源泉となり、いずれは望む未来が獲得されるだろう。しかし、本を読んで考えるだけでは十分ではない。考えを確かなものにするためには、「書くこと」も欠かせない。「読む、考える、書く」は常に三位一体なのだ。



本を読んで自分の頭で考えよう


 「考えること」の前提は「感じること」である。感受性が生き生きと働くことがなければ、よく考えることにはつながらない。『17音の青春 2010 五七五で綴る高校生のメッセージ』(日本放送出版協会、2010年)は、高校生たちの繊細な感受性が思考を経て十七音に結晶した形を、選考委員の選定に即して並べたものである。帯には、「神奈川大学全国高校生俳句大賞―2010」とある。生きることは、感じること、考えること、推敲を重ねて書くことだということが伝わってくる俳句が並んでいる。「分度器のてっぺん猛暑が立っている」(山本美星子)、「人間論語る弟夏座敷」(千田彩花)、「青嵐悪口ばかり連れて来る」(亀田大地)、「教室の模試の静寂蝉時雨」(高橋佑典)。感性がきらめき、視線が鋭い数々の句だ。日常のつかの間の光景が、心のかげりが、十七文字にくっきりと切り取られている。選者の一人、黛まどかは述べている。「『青春は忘れ物、過ぎてから気がつく・・・・・・』という歌がある。急ぎ足で過ぎていく青春の日々。俳句を介して、花鳥風月と細やかに心を通わせ、一日一日、一瞬一瞬を丁寧に重ねてほしいと願う。」(154頁)

 青春の時を生きることは、思いつめること、お互いのズレにとまどうこと、傷つくこと、心ゆすぶられることの経験でもある。青春の生は、しばしば愛や悲しみ、憎しみの情念に染まり、燃えあがり、しばしば孤独の感情でふさがれる。福永武彦の『草の花』(新潮文庫)は、ストイックで理知的な青年の愛の試みとその終わり、そして死を、清冽で抑制的な、時に叙情的で、時に激しく揺れ動く文体で描いた恋愛小説だ。ショパンの調べが通奏低音のように鳴り響いている。16歳の夏休みにこの小説に出会ったという映画作家の大林宣彦は、こう述べている。「僕はこれを呼んだとき、自分が書いた小説だと錯覚しました。その文章はまるでショパンの音楽のようで、楽譜を暗記するように全ページを丸暗記してしまった。」(「週刊現代」3月27日号、125頁)主人公の汐見は、恋人の千枝子にショパンの音楽について語る。「あの夢みるような旋律が、実に個性的な美しさを持って、すみずみにまで鏤められているのだ。・・・だからほんの一フレーズだけ聞かされても、ショパンのものなら決して他の音楽家のものと間違える筈がない、と思うよ。」(177頁)二人がもつれ、熱く乱れ、しかし、実らぬままぎこちなく別れる場面が圧巻である。福永武彦の息子である作家の池澤夏樹は、父の長編小説について述べている。「すべての愛は片思いであり、相愛の成就はあり得ない。あれほど恋愛小説ばかり書いた作家は、実は最初から最後まで恋愛の不可能を書こうとしていたかのようだ。」(『風神帖』みすず書房、2008年、220頁)

 青春は虚構として描かれもするが、凝縮して生きられもする。林尹夫『わがいのち月明に燃ゆ―戦没学徒の手記』(筑摩叢書、1980年)は、林が18から21歳までの学生時代に書いた日記(第1部)と、学徒出陣以後の日記(第2部)をまとめたものである。限られた未来と迫り来る死を意識しながらも、日夜読書と思索に専念し、自分の人格を形成し続け、その一方で、勉強や家族、国家のことで悩み苦しんだ生の軌跡が克明につづられている。ぴんと張り詰めた林の思索は、自分自身を鋭く見つめているだけでなく、戦争という時代状況の深部をも射抜いている。
 出征して帰国した『草の花』の主人公・汐見は、戦地で得た結核がもとで死にいたるが、23歳の林は特攻隊の一員として出陣し、帰らぬ人となった。1945年の7月のことである。

 
人物紹介

福永武彦(ふくなが-たけひこ)[1918-1979]

昭和時代の小説家、フランス文学者。
大正7年3月19日生まれ。昭和17年中村真一郎らと「マチネ・ポエティク」を結成。27年「風土」、29年「草の花」で文壇の地位を確立。加田伶太郎(れいたろう)の名で推理小説、船田学の名でSFも執筆。36年学習院大教授。昭和54年8月13日死去。61歳。福岡県出身。東京帝大卒。著作に評伝「ゴーギャンの世界」、小説「死の島」など。
【格言など】人間は多く、過去によって生きている、過去が、その人間を決定してしまっているのだ(「草の花」)
”ふくなが-たけひこ【福永武彦】”.日本人名大辞典. ジャパンナレッジ (オンラインデータベース). 入手先<http://na.jkn21.com>. (参照 2010-04-23)

池澤夏樹(いけざわ‐なつき) [1945-]

小説家・詩人・翻訳家。北海道の生まれ。福永武彦の長男。
「スティル・ライフ」で芥川賞受賞。「すばらしい新世界」で芸術選奨。詩や評論にも幅広く活躍する。他に小説「夏の朝の成層圏」「バビロンに行きて歌え」「マシアス・ギリの失脚」、評論「母なる自然のおっぱい」「楽しい終末」など。
”いけざわ‐なつき【池澤夏樹】”.デジタル大辞泉.ジャパンナレッジ (オンラインデータベース).入手先<http://na.jkn21.com>. (参照 2010-04-23)

 

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