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サッカー選手の哲学 ― 長谷部・長友・中澤はこう考える ―
推薦文 : 図書館長 和田 渡 (経済学部 教授)

 スポーツの根幹は身体の運動にある。しかし、身体をどう動かすかは、身体に聞いても教えてくれない。それを決めるのは、選手の考える力である。身体をうまく動かすためには、思考による導きが必要になるのだ。すぐれた選手には、身体と思考との対話があり、この対話がプレーの質を高めることにつながっている。瞬発力は身体の領分だが、どの方向にどの速さで動くかを決めるのは、とっさの判断力であり、状況を読む察知力である。両者の融合が巧みなプレーを支える。今回は、サッカーの現役選手が書いた本を何冊か紹介しよう。

 長谷部誠の『心を整える 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎、2011年)は、自分のサッカー選手としての基本が「心を整えること」にあるとする長谷部の哲学を語った本である。忙しい生活にせかされて心が荒んでいくことにブレーキをかけ、自分の心をみつめる時間をもつことの大切を説いている。「心を整えること」を重視する理由は、こう語られている。「僕自身、自分が未熟で弱い人間だと認識しているからです」(232頁)。長谷部は、チーム練習や試合の後の孤独な振り返りの時間のなかで、マイナス発言をし、恨みごとを口にする自分の弱い傾向を反省している。選手間のよりよいコミュニケーションのあり方についても考えている。



サッカー選手の哲学

 第5章「脳に刻む」は、読書論だ。「読書は自分の考えを進化させてくれる」(118頁)。プロになってから本を読むきっかけとなったのは、先輩が移動中に本を読む姿をカッコいいと思ったからだそうだ(同頁参照)。本田も移動の時にはよく本を読むという。長谷部は、デール・カーネギーの『人を動かす』を読んでから、サッカーや人生について深く考える時間がふえたと述べる。
 長谷部はまた、読書ノートをつけるというすばらしい習慣をもっている。大学ノートに印象的なフレーズを書き写し、自分が感じたことや考えたことを書きこむらしい(125~130頁参照)。読みっぱなしにせず、書くことを通じて自分と対話するのも「心を整えること」に結びついている。
 この本には、サッカーをしている人にも、そうでない人にも有益なヒントがつまっている。夜の時間をマネージメントするために、リラクゼーション音楽を流す、お香を焚く、就寝直前にアロマオイルを首筋につける、特製ドリンクを飲むといったお話も混じっている。このドリンクは、2.3歳から飲み続けているという(138~140頁参照)。その他、戦いが生活の組織化から始まることを示す興味深いエピソードもたくさん書かれているので、まだ読んでいない人は、ぜひ読んで参考にしてほしい。

 長友佑都の『日本男児』(ポプラ社、2011年)も生活のヒントが満載の書である。長友も、ストレッチをしながら、10年かけて鍛え続けた筋肉と会話し、一日を振り返って自分自身を見つめなおす時間を過ごすという(2頁)。この時間のなかで、目標と現在の自分との距離測定や、自分の弱点や強さの確認、現状の認識が可能になる。「ストレッチをしながら、等身大の自分を知る。心の重要性を知った今は、どんなときも見直すべきは心だと改めて感じている」(3頁)。長谷部と共通の視点だ。
 第2章「一期一会」では、自分から積極的になにかを変えようとせず、すべてを他人のせいにしてすましていた中学生時代の過去が語られる。「これはな、心のノートやけん。なにを書いてもいいけん。とにかく毎日書いてこい」(42頁)、そう言って先生から配られたノートが変身のきっかけにもなったようだ。面倒くさいと思っていたノート書きだったが、先生の熱いメッセージが書き加えられて返ってきて刺激をうけるうちに、やがてそれが面白い作業へと変わっていく。「真っ白なノートを前にして、今日一日にあったことを振り返る。なにが起き、どんな行動をし、そしてどういう風に感じたのか?頭の中であれこれ考えると、その瞬間には自覚していなかったさまざまな自分の感情に気づくことが出来る」(44頁)。「ノートの上に記された僕の感情を文字として読むことで客観的に自分を見つめることが出来た」(同頁)。長友はまた、ほめて育てるタイプの先生から、逆に自分のダメなところを見つけて補う練習の重要さを知り、成長の手がかりをつかむことを学んだ。
 中学時代の駅伝は、長友に努力の必要と成長について教えた。「夢や目標を叶えることが、必ずしも成功ではないと僕は考えている。大切なのは叶えるために日々努力すること。現在の自分に満足せず、なにが足りないのかを探し、それを伸ばすトレーニングをする。そのプロセスが一番大事だと思い、僕は生きている。目に見える成果が出なくても、やったぶんだけ、人は成長する。夢が実現しなくても、努力したあとには、成長した自分が待っている」(61頁)。
 長友のキーワードは「成長」だ。自分の未熟さや欠点を知り、それらを修正する試みを続け、他方で「自分の未来像、なりたい自分像」(155頁)を常に意識して、その像に近づくための努力を惜しまないこと、そうした成長につながる積極的な姿勢が今日のイタリアでの活躍を支えている。

 中澤佑二の『自分を動かす言葉』(KKベストセラーズ、2013年)は、言葉こそが生きる力になる、言葉は成長の原動力だと考えるにいたった中澤の哲学を伝える一冊だ。「はじめに」で、言葉との出会いによってサッカーがうまくなるわけはないが、言葉には心を強くし、背中を押してくれる力があると語られる(4~5頁参照)。この本で、中澤は、数々の言葉を学び、考え、行動し、サッカー選手として生きてきた軌跡を振り返っている。
 しかし、中澤は10代の頃から言葉の重要性に気づいていたわけではない。彼は20代前半の頃は典型的な「活字音痴」で、読むものはせいぜい『少年ジャンプ』『ヤングマガジン』どまり、小説などもほとんど読まなかったという(59頁参照)。20代後半になって、彼は自分の教養のなさ、自己表現力の貧しさに気づく。自分の伝えたいことを言葉にできないもどかしさ。「このままでは、人の上には立てない―」(同頁)という危機感がめばえ、言葉への意識が高まる。さらに、幅広い知識をもち、巧みな言葉を駆使してサッカーを指導するイビチャ・オシム監督との出会いが、中澤を本へと引きつけた。
 活字音痴の中澤が本屋に行く。しかし、どんな本を読んだらいいのかわからない。なにがいい本なのかも見当がつかない。目につく本を適当に手にとって立ち読みするしかない。
「その立ち読みでどれだけのめり込めるかを自分の判断基準にした。今だから言えるけど、最初はほとんど立ち読みで、なかなかレジに持って行くまでいかなかった」(60頁)。何冊もの本との間で、ためらいがちなやりとりが続く。「そうやって徐々に言葉へのコンプレックスを除いていき、本を購入するようになっていった。すると、少しずつだけど、自分が成長していくことを実感できるようになってきた」(同頁)。中澤は、言葉を知ることによって、自分の過去、現在、未来が一本の線となってつながり、視野も格段に広がってくるのだという画期的な発見をするのだ(61頁参照)。
 「常に言葉を意識して生きるということが人間の成長や前進に結びつく」というのが、この本の中心的なメッセージのひとつである。その他にも、中澤が心の糧としているマジック・ジョンソン、釈迦、アメリカの女性詩人エラ・ウィーラー・ウィルコックスなどの言葉が引用されている。いずれも、言葉が生きる力になることを伝えるものである。
 何度も修羅場をくぐりぬけたスポーツ選手の言葉には、インパクトがある。誰のものでもよいので読んで、生きる指針を得てほしい。

 
人物紹介

長谷部誠 (はせべ-まこと) [1984-]

平成時代のプロサッカー選手。昭和59年1月18日生まれ。ポジションはMF(ボランチ),DF(右サイドバック)。平成14年浦和レッドダイヤモンズに入団。15年に鹿島戦でJリーグ初出場。16年Jリーグ・ベストイレブン。国際Aマッチ初出場は18年のアメリカ戦。20年ドイツのVfLヴォルフスブルクに移籍。豊富な運動量とドリブルが特長。22年FIFAワールドカップ南アフリカ大会の日本代表にえらばれ,ゲームキャプテンとして,全4試合に出場。静岡県出身。藤枝東高卒。著作に「心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣」。
”はせべ-まこと【長谷部誠】”, 日本人名大辞典, ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://www.jkn21.com>, (参照 2013-04-23)

長友佑都 (ながとも-ゆうと) [1986-]

平成時代のプロサッカー選手。昭和61年9月12日生まれ。ポジションはDF。東福岡高から明大にすすみ,大学3年の平成19年FC東京の特別指定選手(翌20年大学在学中に正式入団)となる。20年キリンカップのコートジボワール戦が国際Aマッチ初出場,同年U-23代表,北京五輪代表に選ばれた。21年Jリーグ・ベストイレブン。豊富な運動量とフィジカルの強さが特長。22年FIFAワールドカップ南アフリカ大会の日本代表にえらばれ,全4試合に出場し相手チームのエースをマークして決勝トーナメント進出に貢献した。同年イタリアのセリエAのチェゼーナへ移籍,23年1月同じくセリエAのインテル・ミラノに期限付きで移籍。愛媛県出身。
”ながとも-ゆうと【長友佑都】”, 日本人名大辞典, ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://www.jkn21.com>, (参照 2013-04-23)

中澤佑二 (なかざわ-ゆうじ) [1978-]

プロサッカー選手。ディフェンダー(DF)。2月25日、埼玉県生まれ。三郷工高―FCアメリカ(ブラジル)―ヴェルディ川崎(現、東京ヴェルディ)―横浜F・マリノス。1999年(平成11)3月13日のセレッソ大阪戦でJリーグ初出場。国際Aマッチ初出場は1999年9月8日、イラン戦。1999年Jリーグ新人王、2004年に日本年間最優秀選手賞を受賞。U23(23歳以下)日本代表として2000年オリンピック・シドニー大会に出場。2006年ワールドカップ・ドイツ大会、2010年ワールドカップ南アフリカ大会の日本代表選手。
[中倉一志] ”中澤佑二”, 日本大百科全書(ニッポニカ), ジャパンナレッジ (オンラインデータベース), 入手先<http://www.jkn21.com>, (参照 2013-04-23)

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