蔵書検索(OPAC)
HOME > 資料案内 > 新しく入った本 > おすすめの一冊
新着資料 ベストセラー 学生の購入リクエスト
映画・ドラマの原作 テーマ図書 おすすめの一冊
おすすめの一冊 本学の教員や図書館員のおすすめの本を紹介します。
 

前の本へ

次の本へ
植物礼讃―植物たちが教えてくれること―

推薦文 :和田 渡 (阪南大学 名誉教授)

 田中修の『植物はすごい 生き残りをかけたしくみと工夫』(中公新書、2012年)は、植物たちへの愛情とリスペクトに満ちた本である。田中は、「おわりに」で、植物たちを五感で感じとり、こころで味わうだけでなく、植物たちの生き方について考えてみてほしい、そうすれば、彼らのかしこさ、生きるための巧みな工夫、逆境に耐えるための並々ならぬ努力に気づくだろうと述べる(233頁参照)。この本の中心的なメッセージは、こうだ。「植物たちが、私たちと同じしくみで生き、同じ悩みを抱え、その悩みを解くために懸命に努力している姿を知ることができます。草花や樹木、おコメや野菜や果物、切り花や生け花、林や森、山が語りかけてくるように感じられるようになるでしょう。植物たちが私たちと同じ生き物であり、いっしょに生きていると実感できます」(233頁)。しばしば、人間の生活の邪魔になる植物は、雑草とひとくくりにされ、引きぬかれたり、刈りとられたりと残酷な仕打ちをうける。人間と植物との間での酸素と二酸化酸素のやりとりについて知識として知っていても、著者と同じような目線で植物たちの生きる喜びや苦しみに共感できるひとはまれだろう。植物たちがどのようにして生きているのかに思いをはせるひともそれほど多くはないだろう。本書は、そんなひとたちに植物への見方の変更をせまる一冊である。



 本書の章立ては以下の通りである。第1章 自分のからだは、自分で守る、第2章 味は、防衛手段! 第3章 病気になりたくない、第4章 食べつくされたくない! 第5章 やさしくない太陽に抗して、生きる、第6章 逆境に生きるしくみ、第7章 次の世代へ命をつなぐしくみ。前半部では、「植物たちのからだを守る知恵と工夫の“すごさ”」(ⅲ頁)、後半部では、「植物たちが環境に適応し逆境に抗して生きていくためにもっている、しくみの“すごさ”」(同頁)に焦点があてられている。
 第1章では、食べ物を食べないと生きられない動物との対比で、光合成によって生命を維持し、成長する植物の生き方や、生きのびるための戦略について語られる。その戦略を、著者は植物の気持ちになって、「『少しぐらいなら、食べられてもいい』」(1頁)と表現する。動物に食べてもらって、タネを遠くに運んでもらわないと困る植物がいるのだ。しかし、「食べられたくない!」(16頁)と願う植物たちもいる。そのために彼らが身につける鋭いトゲの効用についても具体的に語られていて、面白く読める。
 第2、第3章では、動物や病原菌から身を守るために、渋み、甘みといった味や、ネバネバの液体や香りなどを巧みに利用する植物が登場する。
 第4章は、「食べつくされたくない!」(95頁)と望む植物のなかには、有毒物質で身を守るものもあるという話で、「アコニチン」というトリカブトの有毒物質や、アジサイの葉っぱに含まれる青酸物質などに言及されている。
 第5、第6章では、植物たちが、強い紫外線を含む太陽の光にどのように立ち向かい、暑さや乾燥に負けないためにどのような戦略をとっているかが詳しく語られている。
 第7章は、タネがなくても、あるいは、花粉がなくても子どもをつくれる植物や、仲間と強い絆で結ばれている植物などの話である。
 いずれの章からも、植物の「すごさ」を教えられる。それと同時に、読み終えたあとでは、苦労して必死に生きている植物たちの生き方に驚き、感動をおぼえる。
 著者には、『緑のつぶやき』(青山社)、『ふしぎの植物学』(中公新書)『入門たのしい植物学』(講談社ブルーバックス)など多くの類書がある。本書に興味をおぼえたひとは、読書範囲を広げて、植物たちとの交流をさらに深めてほしい。

 ステファノ・マンクーゾの『植物は<未来>を知っている 9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』(久保耕司訳、NHK出版、2018年)は、2013年に出版された『植物は<知性>をもっている 20の感覚で思考する生命システムの続編である。原題は「植物革命―植物はすでに私たちの未来を創っている」である。前作は、植物が知性と20の驚異的な感覚を駆使して懸命に生きている姿を浮き彫りにした傑作である。本書は植物が人間たちの未来の発展に貢献しうることを、植物型ロボットの開発、植物のからだを参考にした建築といった具体例を通して明らかにしている。色鮮やかなカラー写真が美しい。本書からも、「植物のすごさ」を教えられる。
 マンクーゾは、フィレンツェ大学付属国際植物ニューロバイオロジー研究所の所長として植物研究を続けている。他方で、植物学者たちの列伝や、対談集などの一般向けの本も書いている。近年は、本と音楽のコラボレートをめざしてマルチメディアプロジェクトを展開している(286頁参照)。
 本書は、「記憶力~脳がなくても記憶できる、繁殖力~植物からプラントイドへ、擬態力~すばらしい芸術、運動能力~筋肉がなくても動く、動物を操る能力~トウガラシと植物の奴隷、分散化能力~自然界のインターネット、美しき構造力~建築への応用、環境適応能力~宇宙の植物、資源の循環能力~海を耕す」の全9章からなっている。そこに一貫しているのは、植物のもつ力を讃え、植物から学ぼうとする姿勢である。
 われわれは植物に依存して生きているにもかかわらず、植物について知らないことが多すぎると、著者は指摘する。2015年の1年間だけで、2034の新種の植物が発見され、この10年間でも毎年2000種以上の新種が見つかっているのだ。植物がわれわれに教えてくれることは無尽蔵といってもいい。
 現在、全植物種の約10分の1が、医療目的、食物、建築用の資材、動物のえさ、毒物などとして利用されており、新種の発見によって、今後は別のなにかを作る材料として植物を用いるだけでなく、植物からなにかを学ぶこともできるだろうと著者は言う(12頁参照)。「植物は、私たちが生きる現代という時代にふさわしい“モデル”だ。(中略)何かをつくる材料からエネルギーの自給自足まで、また環境に対する抵抗力から適応戦略まで、植物は私たち人間が抱えるさまざまな問題に対してはるか昔から優れた解決策を見つけていた。植物についてほんの少し知るだけでも、そのことがわかるだろう」(13頁)。
 著者によれば、多くの構成要素が機能的にまとまりながら、各部分が交換可能なモジュール構造をもつ植物は、中心が不在でも、互いが協力する分散構造を備えているがゆえに、災害や環境の変化にも適応できる。それを可能にするのが、高度に進化した感覚能力である(16頁参照)。植物は、「感覚系によって、環境を効率よく調査し、被害をもたらしかねない出来事に対して迅速に反応することができる。たえず成長しつづける根の先端の優れたネットワークを活用し、環境資源を利用するために土壌を精力的に調査するのだ。現代のシンボルであるインターネットが、植物の根に似た構造をしているのは偶然ではない」(16頁)。環境にうまく適応して生きぬく植物のありかたは、環境や食糧問題などの危機に立ち向かわなければならない人間に多くの示唆を与えている。
 以下で、各章のほんのさわりを紹介してみよう。興味深い章が見つかれば、ぜひ本書を手にとって読んでほしい。
 第1章では、かつてパリで行なわれたという実験を現代風に改良した「ラマルク&デフォンテーヌ実験」によって、オジギソウが記憶する力をもっており、記憶力は40日以上も保たれることが分かったという話が特に興味深い。「脳をもたない生物の記憶力がどのように機能するのかがわかれば、植物の記憶の謎を解き明かすだけではなく、私たち人間の記憶力がどのように働いているのかを解明することにも役立つだろう」(35頁)。
 第2章では、著者の「プラントイド」(植物型ロボット)というアイデア(2003年)が実現するまでの苦闘が語られている。近年、新しい機械の設計や製造のための技術的な諸問題を解決するために、自然の観察から学ぶ「バイオインスピレーション」によるアプローチが採用され、「アニマロイド」(動物型ロボット)や、「インセクトイド」(昆虫型ロボット)が普及し始めている(44~45頁参照)。著者は、「プラントイド」が、将来的には、放射線や化学物質による汚染の調査、地雷原のマッピング、宇宙探査、あたらしいコンセプトにもとづく次世代農業の試みなどに活用できると考えている(60頁参照)。
 第3章は、植物の擬態力についてである。著者は、「植物界の擬態の能力や効果を見てみると、名人芸の域にまで磨き上げられ、動物界には匹敵するものがいないほどの至高の模倣芸術がいくつも見られる(まあ、身びいきかもしれないが……)」(67頁)とまで言い、その一例として、ボキラ・トリフォリアータ(チリやアルゼンチンの温帯林でよく見られるつる性の植物)をあげる。ボキラは、自分が巻きついた植物の葉を模倣して再現するという驚異的な擬態能力をもつ。ボキラがなにを模倣すべきかをどのようにして認識しているかについては、いまだ謎につつまれているという(72頁参照)。
 第4章は、ゆっくりした動きや、すばやい動きを撮影する技術の開発・進歩によって可能になった植物の運動についての報告である。オランダフウロの種子が地中に潜っていく動きを研究することによって、将来、宇宙での地中探査用オートゾンデの製作につながる道が開けているという。
 第5章は、アカシアの樹木やトウガラシなどの植物とアリやカメなどとのかかわり方の研究にもとづいて、植物が「動物を必要とする受動的で単純な存在」(152頁)ではなく、「ほかの生物の行動を操作する能力をそなえた複雑な生物」(同頁)であるというメッセージを伝えようとしている。
 第6章では、植物の根についての記述がじつに興味深い。「根は物理的にネットワークをつくっていて、その先端部はたえず進む前線となっている。つまり、中央に一つの指令センターをもつ動物とはちがって、根端一本一本が微小な無数の指令センターとなり、前線をつくっている。根が成長しながら収集した情報を各指令センターがまとめ、それをもとに伸長の方向を決定する。つまり、根は、一種の集合的な脳、より正確にいえば、長い根に分散された一種の知性であり、これが植物を導いていく。根一本一本が成長し、伸びながら、植物の栄養摂取と生存のために基本的な情報を手に入れるのだ」(165~166頁)。われわれはふだん、植物の花や実、あるいは葉や枝などの地上に出た部分にのみ注目するが、実は植物はそのすぐれた頭脳を地中深くに隠しているのだ。
 第7章では、植物が葉に均等に光が当たるような並び方をしていることに注目し、それを建築に活かそうとする動きや、オオニバスの葉の葉脈構造を模倣した建築物などが紹介されている。
 第8章では、宇宙開発における植物の重要な役割が語られている。2014年には、国際宇宙ステーションで、ミニ温室内での植物栽培実験が始まり、2016年には、無重力環境で育った花がはじめて開花したという(240~241頁参照)。人間は植物なしでは生きられないがゆえに、植物栽培は今後の宇宙開発に欠かせないのだ。
 最終章では、人類の未来についての予言が語られる。2,050年には、地球の人口は100億に達するといわれており、水と食料不足問題は深刻化する。大規模な気候変動による気象災害、旱魃、異常高温などによる穀物生産の減少もおこりうる。今後の大陸の危機を回避するために考えられているのが、広大な海の利用である。たとえば、食料問題を解決する方策として、塩分に高い耐性をもった植物を海上に浮かぶ農場で栽培する構想が述べられている。現状では、ほとんど黙殺されている構想らしいが、著者は言う。「それでも、私たちはくじけない。遅かれ早かれ、いつか食料生産のために海を耕すことが必要になるだろう」(282頁)。これは楽観的な夢物語にすぎないのだろうか。そうだとすれば、人類の未来は暗いといわざるをえない。

 大場秀章『植物は考える 彼らの知られざる驚異の能力に迫る』(河出書房新社、1997年)は、生物学には素人の文筆家である井出守が大場の話を聴いてまとめたものがベースになっており、大変読みやすく、分かりやすい。
 本書の意図は、「まえがき」の最後に現われている。「私たちは、植物を栽培して食用や観賞用に役立てたり、森林を切り開き、また伐採して、植物を自在に操り、己の支配下に置いているように錯覚している。だが、本書を読んでいただくことで、植物たちが人間の小賢しい知恵をはるかに超えるスケールの、知恵と生命力をもっていることに気づかれるだろう」(4頁)。植物たちのおかげで生存を許されていながら、そのことを自覚せず、彼らをないがしろにする人間の無知とおごりをいましめる一文である。
 本書は、1害虫が襲来するとその天敵を呼び寄せる頭脳派、2“分身の術”と、雌雄の合体を自在に使い分けるテクニシャン、3雌バチそっくりの花を咲かせて雄バチを誘う演技派、4海を越えて種子をバラまくダイナミックな戦略家、5砂漠のような乾燥地帯に森林をつくるマジシャンの5部構成である。見出しから明らかなように、本書では、植物たちが生きぬくために用いている巧みな戦略が豊富な具体例を通して述べられている。植物は光や光の波長の違いを通じて互いに会話し、動物との間では、自分で発散する多種多様な化学物質を用いて情報伝達を行なっているという(18~32頁参照)。また、異種の植物間であっても、特定の物質を通じて、「『俺は食べられたけど、おまえは食べられるなよ』」(40頁)という情報を伝えることもあるという。植物たちが開花期を相談して決めているという話も出てくる(42~47頁参照)。
 著者はこう語る。植物の祖先は、35億年前の海に漂っていた微生物であり、これは人間を含む動物たちの原点である。すなわち、人間も植物も親戚関係にあるのだ(65頁参照)。
 本書を読むと、間違いなく、植物を見る目が肥えてくる。植物と同じ時間を共に生きている喜びも感じられてくる。ぜひ一読をすすめたい。

人物紹介

田中修 (たなか-おさむ) [1947−]

1947年(昭和22年)京都に生まれる。京都大学農学部卒業、同大学大学院博士課程修了。スミソニアン研究所(アメリカ)博士研究員などを経て、現在、甲南大学理工学部教授。農学博士。専攻・植物生理学。 主著 『つぼみたちの生涯』 『ふしぎの植物学』 『雑草のはなし』 『都会の花と木』(中公新書)、『クイズ植物入門』 『入門たのしい植物学』(ブルーバックス)、『葉っぱのふしぎ』 『花のふしぎ100』(サイエンス・アイ新書)ほか多数 ―本書より

ステファノ・マンクーゾ (Stefano Mancuso)

イタリア、フィレンチェ大学農学部教授、フィレンチェ農芸学会正会員。フィレンチェ大学附属国際植物ニューロバイオロジー研究所(LINV)の所長を務め、また国際的な「植物の信号と行動学会」(The Society of Plant Signaling & Behavior)の創設者のひとり。
本書でも紹介される画期的なプロジェクト「クラゲ形の浮遊船(Jelly Fish Barge)」は、2015年のミラノ国際博覧会で注目された。これは、水面に浮かんだ組み立て式の温室で、太陽光発電の海水淡水化装置を使って植物を栽培するもの。また、本国イタリアや日本でもベストセラーとなった『植物は<知性>をもっている』ほか多数の著作があり、国際誌に250以上の研究論文が掲載された。La Repubblica 紙で、2012年の「私たちの生活を変えるにちがいない20人のイタリア人」のひとりに選ばれている。 ―本書より

大場秀章 (おおば-ひであき) [1943-]

1943年、東京生まれ。東京大学総合研究博物館教授。専門は植物学。近年はとくにヒマラヤ・中国の高山やアラビア半島の砂漠の中の森林などを中心に極限環境に生きる植物の生態や多様性を研究している。主な著書には、『日本の野生植物』 (共著) 『森を読む』 『秘境・崑崙を行く』 『誰がために花は咲く』 『日本森林紀行』 『植物学と植物画』 訳書に 『植物の起源と進化』 『植物が消える日』 『ボタニカル・モンキー』 などがある。 ―本書より

ページトップへ戻る