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宇宙の神秘―太陽・地球・惑星―
推薦文 :和田 渡 (阪南大学 名誉教授)

 与謝蕪村は、「菜の花や月は東に日は西に」と詠んだ。5・7・5の17文字のなかに、のどかに広がる春の風景をつつむダイナミックな宇宙空間を感じさせる名句である。『旧約聖書』の「シラ書」43「主の栄光」にはこう書かれている。「かまどの火を吹く人は、灼熱の中で働くが、/ 太陽はその三倍の熱で山々を焦がす。/ 火のような熱気を吹き出し、照り輝く光線は目をくらます。/ 太陽を造られた主は偉大な方。/ 主の命令によってそれは決められた道を急ぐ」(『聖書』日本聖書協会、1999年)。日本の各地では、ひとびとは山頂から見る日の出を御来光として拝む。「太陽と死は直視できない」と述べたのは、フランスのモラリストのラ・ロシュフコーである。
 古来、太陽は神話や宗教、文学・思想などの領域で、さまざまに意味づけられてきたが、近年では、科学の分野における太陽研究や宇宙論の展開がめざましい。巨大電子望遠鏡や探査機から撮影された色彩豊かで神秘的な宇宙の映像には思わず見入ってしまう。今回は、宇宙について語った興味深い三冊の本を紹介しよう。



 柴田一成の『とんでもなくおもしろい宇宙』(角川書店、2016年)は、長期にわたる太陽研究の成果を一般の読者向けに書いたものである。著者は、太陽宇宙プラズマ物理学の専門家であり、京都大学花山天文台、飛騨天文台の台長をつとめている。太陽や天体で起きる爆発現象が主たる研究対象である。本書では、日が昇り、日が沈むという天動説的な観点で太陽を見ているとけっして見えてこない、太陽のリアルな姿が描かれている。「夕日百景」に見る太陽は風景を美しく飾るが、著者が語る太陽は爆発だらけで、大量の放射線も放出する危険な天体である。
 本書の構成は以下のとおりである。「はじめに」、第1章 とんでもなく激しい太陽の素顔と星のスーパーフレア、第2章、超巨大な衛星、月の不思議、第3章 個性豊かな太陽系の惑星たち、第4章 スーパーフレアの謎を解くリコネクション、第5章 宇宙物理学者による地球外生命体のマジメな議論、終章 天文学者が目指す地平、「あとがき」。
 第1章は、X線望遠鏡や日本の太陽観測衛星「ようこう」などによって観測可能になった太陽の活動報告が中心である。太陽は、日常的な感覚では、「暖かい光を届け、すべての生物のエネルギーの源である母なる星」(14頁)だが、天文学では、コア、放射層、対流層、光球、彩層、コロナからなると想像されている。コアで起こっている核融合反応によって、途方もないエネルギーが生まれ、それが地球に到達して、生物の生存を可能にしている。コロナは100万度もの超高温状態である。
 太陽の黒点の正体は、「一種の巨大な磁石」(29頁)であり、そこで発生する磁力によって爆発が起きる。太陽の表面で頻繁に起こる爆発のなかで最大級のものがフレア、それよりも10倍以上エネルギーの大きい爆発がスーパーフレアと呼ばれる。1989年には、大フレアによって大量のプラズマ(気体が電子と陽イオンに電離した状態)が地球に向かって放出され、磁気嵐が生じた。その影響でカナダのケベック州で大停電が発生し、都市機能が麻痺し、約600万人が影響を受けたという。
 1994年、柴田は、鹿児島県にある内之浦宇宙空間観測所で、「ようこう」から送られてきたX線画像に「大きなフレアに良く似た形の現象の痕跡」(60頁)を発見し、「かなり大量のプラズマがコロナから噴き出したに違いない」(同頁)と確信して、世界中の関係機関にメールで連絡した。その情報を受けたシカゴの電力会社は磁気嵐に備えた結果、トラブルを回避できたという。この件をとおして、柴田は、宇宙天気予報の確立が太陽研究者に課せられていると考えるようになったと述べている(61頁参照)。
 第3章では、地球外生命体についての最新情報が紹介されている。ガリレオが発見した木星の衛星のエウロパやカリストは「氷で覆われた星」(110頁)であり、エウロパの場合は、氷の下に海流が存在することが明らかになった。こうした事実は、地球外生命体を研究するひとの注目を集めているという(111頁参照)。
 この章では、藤原定家が書き残した『明月記』に、1054年に起こった超新星爆発(星の寿命がつきるときの大爆発)の観測記録が見られるという話がおもしろい。20世紀初頭に、欧米の天文学者たちは、かに星雲が秒速1000キロメートルで膨張しているのに気づき、逆算して約1000年前に大爆発が起こったと考え、古文書にその証拠となる記録を捜し求めた。そのひとつが日本で見つかったというわけである。グリニッジ天文台の博物館のなかには、「1054年 中国と日本の天文学者がおうし座に新たに光る星を観測。この残骸が現在のかに星雲と同定される」(127頁)という記述が見られる。
 第4章では、「磁気リコネクション」(132頁)という、太陽表面での爆発に関する研究で鍵となる現象について、専門的な解説がなされている。磁気リコネクションとは、コロナに蓄積された磁場のエネルギーが、磁力線のつなぎ替わりによって、プラズマの熱エネルギーや運動エネルギーに変換される物理的な過程を指す(138頁参照)。柴田は、パチンコの玉をはさんだゴムを十分に延ばして手を離すと玉が勢いよく飛んでいくときの、ゴムが磁力線で、玉がプラズマにあたるとイメージすれば理解しやすいと述べている(143頁参照)。プラズマの衝突は、大爆発や太陽風を引き起こす。
 第5章は、第3章の延長で、地球外生物の問題を扱っている。まずUFOの話題から始まる。天文学者の間でもUFOの存在については意見が分かれている。柴田自身は、未確認飛行物体という現象を認める立場に立つ(162頁参照)。「現在では、人類がいずれ地球外の知的生命体に遭遇する可能性はあると多くの研究者が考えています」(164頁)。本章では、フランク・ドレイク(アメリカの天体物理学者)が編み出した、知的生命体と出会う確率を導く数式や、エンリコ・フェルミ(物理学者)の発言に由来する「フェルミのパラドックス」(172頁)が紹介されている。
 終章では、柴田は、宗教と科学、政治と科学について包括的な見解を述べている。科学が政治に屈することがあってはならないというのが彼の信念であろう。ジョルダノ・ブルーノは、地動説を唱え、太陽の唯一無二性を否定したために、キリスト教徒の反発を受け火あぶりの刑に処せられた。その顚末を見届けたガリレオは、裁判で自説を翻した。科学が宗教に屈服した時代であった。現代はどうか。柴田は地球温暖化に対する反応を例に取りあげる。地球の温暖化は二酸化炭素の排出量の増加に起因するとして、1997年の京都議定書では排出規制の方向が打ち出された。柴田は、温暖化には太陽の黒点が影響している可能性もあるとして、各国の経済的な思惑ともからむ政治的な判断を優先させるのは好ましくないと言う。彼は、黒点の数の推移を観察していると、今後は地球が寒冷化することもありうると見なしている(184~193頁参照)。
 柴田は、日本における実学を重視し、基礎科学を軽視する傾向にも異議を唱えている。経済的な利益獲得を優先するあまり、宇宙研究やゴリラ研究など、お金にならない分野は冷遇されているが、それは国の根幹を揺るがす事態につながりかねないと危惧するのである(193~196頁参照)。
 本書は、地球に拘束された地球中心主義的な視点の転換をうながす。地球を他の惑星との関係において見つめなおしてみるために格好の本である。

 アダム・フランクの『地球外生命体と人類の未来 人新世と宇宙生物学』(高橋洋訳、青土社、2019年)は、天体物理学や宇宙生物学の観点から、地球外生命体や気候変動の問題を分析した本である。原題は、Light of the Stars: Alien Worlds and the Fate of the Earthである。彼は、ロチェスター大学天文学教授であり、星の誕生と死の研究や、数理モデルを用いた惑星と文明の共進化の研究に従事している。
 本書の構成は以下のとおりである。「はじめに 惑星と文明プロジェクト」、第1章 エイリアン方程式、第2章 ロボット大使は惑星について何を語るのか、第3章 地球の仮面、第4章 計り知れない世界、第5章 最終項、第6章 目覚めた世界。
 フランクは、「はじめに」でこう述べる。「科学は、たった二〇年前でさえ知られていなかった事実を明らかにしつつある。宇宙は惑星に満ちており、それらは原則的に地球と大きくは異ならない。これらの惑星の多くには、海洋や海流が存在していると予測できる数々の理由がある。そこには激しい風にさらされた山々や、朝霧に包まれて一日を開始し、降雨で終える谷が存在していることだろう」(11頁)。したがって、「地球が宇宙で唯一の生命を宿す世界ではあり得ない」(12頁)のである。地球上の文明とはことなる文明との出会いの可能性もあり、文明を相対化し、理解する地平も開かれうるということだ。
 フランクによれば、革新的な科学としての「宇宙生物学」は、惑星と生命が織りなす可能性を探求する道を開き、この地球でなにが起きたのか、宇宙の別の場所でなにが起こりうるのかを示してきたという(17頁参照)。本書を導くのはつぎのふたつの問いである。「宇宙生物学による革新は、他の世界の生命、さらにはその知性や文明について何を教えてくれるのか?」(18頁)、「他の世界の生命、知性、文明は、人類の運命について何を教えてくれるのか?」(同頁)。これらの問いをベースにして科学的な探究を続ける先には、地球外生命体(エイリアン)との遭遇があるかもしれない。彼らから、巨大化するハリケーンや台風などの気候変動に起因すると考えられる地球の危機的な状況を切り抜ける方法を学べるかもしれない。フランクが宇宙生物学の未来に寄せる期待は並外れている(19~23頁参照)。
 第1章は、柴田の本の紹介でも触れた「フェルミのパラドクス」に関する話から始まる。イタリア出身の科学者エンリコ・フェルミのパラドクスはこう定式化される。「『先進技術を発達させた地球外文明がありふれているのなら、直接的、もしくは間接的な手段によって、私たちはすでに、その存在の証拠を握っていなければならない』」(27頁)。この定式に反応する天体物理学者や研究者の論文が紹介されている。
 この章の後半では、先に名前を挙げたフランク・ドレイクに多くのページが割かれている。彼は、地球外文明に関する現代科学の礎石を築くのに貢献した人物である。父から、地球に似た世界が他にも存在すると聞かされた8歳のドレイクは、それを忘れず、成人して電波天文学の分野で活躍するようになった。彼は、1961年のグリーンバンク会議で、ドレイクの方程式を示した。引用内の記号を省略して、ことばだけで表現すれば、「『私たちが電波を受け取ることのできる地球外文明の数は、一年間に生じる恒星の数、惑星をともなう恒星の割合、生命が誕生し得る惑星の数、生命が実際に誕生する惑星の割合、知性が進化する惑星の割合、その知性によって技術文明が発達する割合、それらの文明の平均寿命を掛け合わせたものに等しい』」(55~56頁)というものである。それ以後、この方程式は、「宇宙生物学者に考える道筋を与え、その過程を通じて、生命、文明、私たち自身を理解するあり方を変えた」(58頁)という。
 第2章以降もスリリングな内容だ。地球の気候変動や温室効果に関する新しい知見の獲得を可能にする金星や火星研究、生命と地球の「共進化」をさぐる地球システム科学研究、ドレイク方程式の検討、地球以外の惑星や衛星の文明の可能性を視野に入れた宇宙生物学の展開など、話題はつきない。

 ジョージ・チャム+ダニエル・ホワイトソンの『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない この世で一番おもしろい宇宙入門』(水谷淳訳、ダイヤモンド社、2018年)は、副題どおり、楽しく読める本である。原題は、We Have No Idea: A Guide to the Unknown Universe である。ダークマター、ダークエネルギー、空間、時間、宇宙線、ビッグ・バンなどについて、だれが読んでも分かるように書かれている。
 ジョージ・チャムは漫画家、ダニエル・ホワイトソンは、現在はカリフォルニア大学アーヴァイン校の実験素粒子物理学教授である。欧州原子核研究機構でも研究をおこなっている。
 本書は以下の構成である。「はじめに」、第1章「宇宙は何でできているの?―君はすごく珍しくて特別だ」から、第17章「宇宙で僕らはひとりぼっちなの?―どうしてまだ誰も来てくれないの?」、「『まとめ』みたいなもの―究極の謎」。
 最初と最後の章のごく一部を紹介しよう。第1章では、宇宙研究の現状報告だ。宇宙のなかでわれわれが不完全であれ知っている物質は5%にすぎず、27%に相当する「ダークマター」についてはほとんど詳しいことは不明で、残りの68%は全然分かっていないという。「1頭のゾウを何千年もかけて調べていたら、ある日突然、いままで尻尾しか見ていなかったことに気づいた。そんな感じなのだ!」(009頁)。陸上の地図のいたるところには名前がついているが、宇宙の探検はまだ始まったばかりなのだ。
 第17章は、ドレイク方程式を利用したエイリアン探しの章である。「エイリアンはどこかにいるのだろうか?」、この少年が懐くような疑問を研究につなげる天文学者もいるのだ。広大な宇宙のどこかには、別の文明が誕生し、人類との交信を望むエイリアンがいるかもしれない。著者は、宇宙の広さをこう表現している。「信じられないほど広い宇宙に何十億もの銀河があって、その銀河1つ1つには、何千億もの恒星や惑星がばらばらに散らばっている」(428頁)。しかし、宇宙の大きさや、惑星の数などは確実に分かり始めているという(429頁参照)。今後の宇宙研究に期待が高まる。
 今回取りあげた3冊の本は、地球を他の惑星との関連でとらえる観点を提供してくれる。宇宙を探求する学問の切り開く地平をかいま見ることもできる。たまには、スマホの小さな窓を閉じて、広大な宇宙空間に目を向けてほしい。

人物紹介

柴田一成 (シバタ カズナリ) [1954-]


アダム・フランク (Adam Frank)

ロチェスター大学天文学教授。ナショナル・パブリック・ラジオのブログ13:7 Cosmos&Cultureの共同創設者で、All Things Consideredのコメンテーター。著書に『時間と宇宙のすべて』などがある。―本書より
ジョージ・チャム (Jorge Cham)

コミック・ストリップ(新聞、雑誌に掲載される複数コマのマンガ)の描き手であり、“Piled Higher and Deeper”『PHDコミックス』を18年以上描きつづけている。この作品のウェブサイトは、2008年以降で累計5000万以上の閲覧回数を、年間読者数は700万人を誇る。作品はニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、アトランティック、サイエンティフィック・アメリカンなどの紙誌にも掲載されている。スタンフォード大学でロボット工学のPh.D.を取得し、カリフォルニア工科大学で教員を務めていたこともある。―本書より
ダニエル・ホワイトソン (Daniel Whiteson)

ペンシルヴェニア大学などを経て、現在はカリフォルニア大学アーヴァイン校の実験素粒子物理学教授。かつてはシカゴ近郊にあるフェルミ研究所の陽子=反陽子コライダーで実験をおこない、現在は全周27キロメートルの円形加速器・大型ハドロンコライダー(LHC)で知られるCERN(欧州原子核研究機構)でも研究をおこなっている。2016年1月には、チャムと協働して、PBS(米国の公共放送サービス)で科学についてのコミックスや動画をオンエアし、100万以上のPVを獲得。2人を指して「世界最高の先生」との呼び声が高い。―本書より
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