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心身論の現在―こころ・からだ・いのちを見つめる―
推薦文 :和田 渡 (阪南大学 名誉教授)

 ロバート・C・フルフォード&ジーン・ストーンの『いのちの輝き フルフォード博士が語る自然治癒力』(上野圭一訳、翔泳社、2018年[初版第29刷])は、伝説の治療家と言われた著者がはじめて語ったこころ・からだ・いのち論である。原題は、Dr.Fulford’s Touch of Life
The Healing Power of the Natural Force
である。帯には、吉本ばななが寄せた、「私はこの本を何回読み返しただろう?何人にすすめただろう?」という一文がおかれている。
 この本の構成は以下の通りである。プロローグ、オステオパシーとはなにか、宇宙のしくみと人体、健康が問い直される時代、オステオパシーによる健康、自己管理の秘訣、健やかな生、穏やかな死、霊性を高める、エクササイズ、もっと知りたい人のために(1章から9章)。
 「プロローグ」で、著者はこう述べる。「仕事をつうじて拾いあげてきた教訓の第一は、からだのシステムとこころのシステムはひとつに結ばれているということだ。治療がうまくいって治療室をでていくとき、患者はからだが楽になっているだけでなく、こころも軽くなっているということだ。からだとこころは確実にひとつのものであり、どちらかがよくなれば、もうひとつのほうが自然に楽になっている」(14頁)。 こころとからだを分離する二元論をきっぱりと断ち切る立場が表明されている。


こころとからだは相互に働きかけあいながら、ひとつのシステムとして機能しているということだ。「人間のからだは解剖学の教科書が教えているものよりもずっと複雑なものだ。だれもが知っている器官系のしくみや生理作用のほかに、まだよく知られていない事実がある。それは、からだが活発に動くエネルギーの、入り組んだ複雑な流れによってもできているということだ」(15~16頁)。ここで言われるエネルギーは、東洋医学で言う「気」のことであろう。病気は「エネルギーの流れ」の悪化によって生じるから、その流れをよくするように手助けをすれば、こころもたましいもよくなると著者は信じている。
 ところが、その信念を共有する医師はすくないと著者は言う。患者の症状を一方的におさえつけることをめざす現代の医学では、科学的な対象にならないものは無視され、体内のエネルギーの流れをはじめ、「徳性、愛、たましい、霊性」(17頁)なども一顧だにされない。それゆえに、科学的知識を捨てることなく、「人間を霊性・精神性・身体性からなる、ひとつの全体としてとらえること」(17頁)が急務だと著者は考えている。
 第1章は、オステオパシーについての解説である。オステオパシーとは、「からだに本来そなわっているはずの自然治癒力を最優先する治療法」(19頁)を研究していたある医師が始めた医療である。この医師は、どんな病気も筋骨格系の異常による循環系と神経系のアンバランスに起因すると考え、それを元に戻すための「手技」を編み出した。彼は、その手技に、「オステオ(骨)」と「パソス(病む)」というギリシア語を合成して「オステオパシー」と名づけた(20頁参照)。それは、骨、筋肉、腱、関節、組織を含む「筋骨格系」を指先で慎重にほぐし、歪みを治していく技術である。この手技によって脳脊髄液の循環がうながされ、呼吸運動も活発化し、血流も勢いを増して、消化吸収の度合いも高まるという。
 著者が入学したカンザスシティ・オステオパシー大学では、手指の感覚を鋭くするための教育に力点が置かれていた。たとえば、何枚もの毛布でくるんだ人骨を指で触って、その種類や特徴を言い当てる訓練がおこなわれた。類似の訓練はこう記述される。「紙のうえに人間の髪の毛を一本置き、そこに別の紙を重ねる。紙に目印をつけることは許されない。そして、うえの紙にそっと指一本でふれ、髪の毛がどこにあるかを感じとる。正しくいいあてられれば、つぎの指でふれる。両手の指すべてで正解をだすと、教授はもう一枚の紙を重ねる。それでも正解がでると、また一枚と、それ以上だれもいいあてられなくなるまで何枚も紙を重ねていくのである」(26頁)。こうした訓練を通じて、患者のからだの骨格のゆがみを治し、生命エネルギーの流れをよくすることができる。
 第2章は、エール大学の神経解剖学の先生によって初めて立証された「生命場」に関する研究を扱っている。彼は、「人体が電磁エネルギーに浸透され、とりかこまれている」(34頁)ことを明らかにした。生物は周波数の高い電磁場という特徴をもち、この生命の場は「肉体を組織化する場」である(35頁参照)。生命体は、電磁波のパターンに促されるようにして活動するというのである。この考え方に共鳴する著者はこう述べる。「人体にくまなく浸透し、それを包みこんでいる生命場は電磁気エネルギーでできている。そして、そのエネルギーが体内にあるとき、わたしはそれを『生命力』と呼ぶ」(40頁)。生きるとは、この種のエネルギーの流れに支えられて生きるということである。著者は、体内の生命エネルギーが、体内にとどまらず、体外の宇宙エネルギーとも共振していると見なす。「あらゆる生き物は、宇宙に偏在している電気的な生命力の流れとともに脈動している」(46頁)。
 怪我や骨折などによってこの流れが妨げられた患者に施されるのが手技である。手首を傷め痛みが続く女性を触診し、肩から手にかけてひっかかるような感じをおぼえた著者は、「ちょっとした手技を加え、生命力のブロックをとりのぞいて、手首にまで流れるようにした」(48頁)。結果は良好だったという。この章のおしまいに、オステオパシーの目標がまとめてある。「エネルギーの自由な流れは決定的に重要なものである。したがって、流れを阻害するものをとり除くことがわたしの仕事の中心になる。わたしの介入によって患者の健康が回復したとすれば、それは患者のからだにエネルギーが自由に流れるようになったからにほかならない」(62頁)。
 第4章は、オステオパシー療法の具体例が豊富な章である。出生時トラウマや心理的なトラウマによって生命力がブロックされ、健康が損なわれた患者に対する触診は、過去数十年基本的に変っていないという。「足の裏からあたまのてっぺんまで手でふれて、すべての関節の動きをしらべ、関節の表面の緊張をさぐっていく。生命力の流れが悪いところを特定しようとするのである」(94頁)。関節だけでなく、頭蓋骨や脳の両半球の動きなども指先で確かめていくという。患者は治療後に、「なんともいえない感じのものがからだを流れているのがわかる」(99頁)と告げるそうだ。ブロックされていた生命力復活のあかしだ。
 第5章でもっとも興味深いのは、太陽神経叢(腹腔神経叢)についての話だ。それは、「体幹の中央、心臓のしたから胃の裏がわにかけて大きくひろがる神経細胞の集まり」(159頁)であり、そこから腹腔の臓器すべてに向かって神経が放射状にのびて、臓器を支配している(同頁参照)。著者によれば、太陽神経叢は腹にあるもうひとつの脳であり、怒り、喜び、悲しみ、憎しみなどの感情の中枢でもある。発生的には、「あたまの脳」(160頁)に先行して「腹の脳」(同頁)が発達しており、後者は大人のこころの働きとも深くむすびついていると考えられる。ヨガでは、古来、太陽神経叢は「チャクラ(サンスクリット語で輪という意味)」という名称で呼ばれ、重要視されてきた。
 第8章には、生命力を高めるための八つのエクササイズが紹介されている。からだのおもな部分をストレッチし、血液循環と生命力の流れをよくする運動である。
 本書は、からだを「個々の部分の寄せ集め」(69頁)と見なし、「ひとつの全体」(同頁)として見ようとはしない現代の西洋医学を批判する。また、時間をかけた触診や問診よりも、投薬を前面に出す医者とは一線を画している。病院や患者と医者の関係を考えてみるうえで参考になる本である。

 エムラン・メイヤーの『腸と脳 体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』(高橋洋訳、紀伊國屋書店、2018年)は、フルフォードと同じ観点からこころやからだ、いのちをみつめる一書である。最新の研究成果を踏まえた画期的な本である。原題は、The Mind‐Gut Connection How the Hidden Conversation within Our Bodies Impacts Our Mood, Our Choices, and Our Overall Health である。メイヤーはドイツ出身の胃腸病学者であり、現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校で教えている。
 本書の構成を紹介しておこう。第1部 身体というスーパーコンピューター リアルな心身の結びつき、心と腸のコミュニケーション、脳に話しかける腸、微生物の言語(第1章~第4章)、第2部 直感と内臓感覚 不健康な記憶、情動の新たな理解、直感的な判断(第5章~第7章)、第3部 脳腸相関の健康のために、食の役割、猛威を振るうアメリカ的日常食、健康を取り戻すために(第8章~第10章)。なお、訳者は「あとがき」のなかで、gut(腸、胃腸、消化管、消化器系、内臓全体)、microbes(微生物)、emotion(情動)、feeling(感情)、gut sensation(内臓刺激)、gut feeling(内臓感覚)などの訳語例を出して、そのように訳した理由を適切に述べているので、先に目を通してほしい。
 本書の狙いを端的に示す文章をまず引用する。「本書で私は、腸と腸内に宿る兆単位の微生物、そして脳とが、いかに密に連絡を取り合っているかについて、革新的な見方を提示する。とりわけこの三者の結びつきが、脳や腸の健康維持に果たす役割に焦点を絞る。さらには、この体内の会話が遮断された場合、脳や腸の健康にもたらされる悪影響について論じ、脳と腸の連絡を再確立して最適化することによって、健康を取り戻す方法を紹介する」(11頁)。著者によれば、現代の医学は、「人体というマシンの各パーツを動かしているメカニズムの詳細を解明すること」(12頁)に力点をおいてきた。医師たちは、パーツの故障を治すあたらしい薬剤の開発を製薬会社に求める一方で、科学者との合同研究を通じて、最先端の外科的手術を実現してきた。著者は、ニクソン大統領が1971年に「米国がん法」に署名したときに、西洋医学は新次元に突入し、がんは国家の敵に、人体は戦場になったと述べ、その後の状況をこう表現している。「この戦場では、医師は、毒性を帯びた化学物質、命取りになりかねない放射線、そして外科手術を駆使しながら総力を結集してがん細胞を攻撃する、などというように、焦土作戦を展開して身体から疾病を取り除く。薬物療法でも類似の戦略が採用され、さまざまな細菌を殺す、もしくは無力化することのできる薬効範囲の広い抗生物質をばら撒きながら感染症と戦い、病原菌を殲滅する」(12頁)。パーツの攻撃に忙しく、「脳の機能不全」(13頁)には関心が払われなかったのである。今では、「菌を殺す」、「がんをたたく」といった言い回しはあまり抵抗なく受け入れられている。
 著者は、こうした「機械的で軍隊的な疾病モデル」(13頁)から訣別し、「脳腸相関」の観点を重視する。彼は言う。「最近の研究によれば、腸は、そこに宿る微生物との密接な相互作用を通して、基本的な情動、痛覚感受性、社会的な振る舞いに影響を及ぼし、意思決定さえ導く。(中略)『内臓感覚に基づく判断』といういい古された表現の正しさは、神経生物学的にも裏づけられる。つまり、私たちが自分の人生を左右する判断を下す際には、腸と脳の複雑なコミュニケーションが関与するのである」(17頁)。「腸は、他のいかなる組織も凌駕し、脳にさえ匹敵する能力を持つ。専門用語では腸管神経系(ENS)と呼ばれる独自の神経系を備え、『第二の脳』と呼ばれることもある」(18頁)。近年の研究から、腸と脳は、神経やホルモン、炎症性分子などからなる双方向の伝達経路を解して密に結合していることが明らかになっているのだ(19頁参照)。
 脳と腸の相関性に注目する研究は、腸内に生息する細菌、古細菌、菌類、ウイルス(合わせてマイクロバイオータと呼ばれる)に関するデータの爆発的蓄積によって可能になった。それを可能にしたのが、2007年にアメリカ国立保険研究所の主導で立ち上げられたヒトマイクロバイオーム(マイクロバイオータとそれがもつ総体的な遺伝子)計画である。2016年には、バラク・オバマ大統領によって、微生物研究を促すための「マイクロバイオーム・イニシアティブ」が発表された(22頁参照)。
 ヒトマイクロバイオームに関する科学的な研究が過去10年の間にもたらした貢献は、16世紀の科学革命や、19世紀のダーウィンの進化論に匹敵するものだという。その研究によれば、人間はヒトの構成要素と微生物の構成要素からなる超固体であり、両者は不可分で、相互に依存する(26頁参照)。以下に引用する指摘は、きわめて示唆的である。「微生物の構成要素は、土壌、大気、海洋に生息する他のあらゆる微生物と、さらにはほぼあらゆる動物と共生している種々の微生物と、生物学的コミュニケーションシステムを介して緊密に連携しているため、私たちは地球の生命のネットワークに、緊密に、不可避的に結びつけられている。ヒトと微生物から構成される超固体という新たな概念が、地球上における私たちの役割と、健康や疾病が持つ諸側面の理解に大きな意義を有することは、あえて指摘するまでもない」(26頁)。人間観の根本的な転換が求められている。
 最新の微生物研究を通じて、「腸と腸内微生物と脳が、共通の生物言語を用いて対話していること」(28頁)が明らかにされつつある。そこで著者は問いかける。「これらの目に見えない生物が、どうやって私たちに話しかけるのだろうか? どうすれば彼らの声を聞き取れるのか? そもそも、なぜ私たちとコミュニケーションを図れるのか?」(同頁)。これらの疑問を解き明かすために本書は書かれている。
 興味深い問題が次から次へと語られる。導入的な第1章では、「脳-腸-マイクロバイオータ」相関のバランスが崩れるとどうなるのか、細菌はどのような役割を果たしているのか、食事のときに、なにが起きているのか、健康であるとはどういうことなのかといった問題が提起されている。この章のおしまいのアドバイスが効いている。「今や私たちは、心、身体、体内の生態系を保全するエンジニアに、自分自身がならなければならない。そのためには、腸と脳がいかにコミュニケーションを取っているのかを、さらには腸内微生物がそこにどう関与しているのかを理解する必要がある」(34~35頁)。
 著者は、アメリカでひっぱりだこという。みんなが話を聞きたがっているのだ。この本にはそのエッセンスが詰まっている。ぜひ読んで、未知の世界に踏み込んでほしい。


人物紹介

ロバート・C・フルフォード (Robert C. Fulford, D.O.)

1941年に独自の治療法を行い始める。オハイオ州シンシナシティで開業後、アリゾナ州トゥーソンに移る。90歳を過ぎた今もなお米国中でオステオパシーの治療法を指導。現在はオハイオ州で主に児童を対象に治療を続けている。

ジーン・ストーン (Gene Stone)

『エスクワイア』『ニューヨーク』『ライフ』などの多数の雑誌に健康と心理学についての記事を書いている。最近の著書に Pocket Book 刊行の Little Girl Fly Away がある。

エムラン・メイヤー (Emeran Mayer, M.D.)

ドイツ生まれの胃腸病学者。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授。脳と身体の相互作用、特に脳と腸のつながりを40年にわたって研究し続け、ストレスとレジリエンス(回復力)を神経生物学的に研究するUCLAの付属機関、CNSRのディレクター、および潰瘍研究教育センター(CURE)の共同ディレクターを務める。脳と腸のつながり及び慢性的腹痛研究の第一人者として知られ、その研究は四半世紀にわたって米国国立保健研究所(NIH)の支援を受けている。また、アメリカ公共放送のラジオ(NPR)やテレビ(PBS)、ドキュメンタリー映画「In Search of Balance」(米・2016)への出演など、幅広く活動している。著者の研究は、『アトランティック』『サイエンティフィック・アメリカン』『ニューヨーク・タイムズ』『ガーディアン』などの新聞・雑誌のほか、さまざまな出版物で紹介、参照されている。ロサンゼルス在住。

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