プラープダー・ユンの『新しい目の旅立ち』(福富渉訳、ゲンロン、2020年)は、旅の途上での人間と自然についての思索、島民との交流や島の印象を克明に書きとめたものであり、文明批評でもある。本書は、序文に続く、「1 黒魔術の島 あるいは、時間のレンズの中のスピノザと蛍についてのまやかし」、「2 魔女 ソロー 魔術師 テロリスト そして心騒ぐ孤独」、「3 まやかし」からなる。 ユンは、1973年にバンコクに生まれた。14歳で渡米し、デザイナーとして働き、26歳で兵役のため帰国し、その後執筆活動を始めた。2002年に、短編集『可能性』で東南アジア文学賞を受賞した。 ユンは、本を書き始めて8年が経つ2007年頃に、次第に自分に違和感を覚えるようになった。「同じ引き出しを開けては古い持ち物を引っぱり出して、それを使って自分の思いや考えを書いていることに、ぼくはうんざりしていた。リサイクルだけで生計を立てているぼくは知のペテン師なんだという気持ちが、無視できないくらいに心の奥深くまで食いこんでいた」(13 頁)。ユンはこの現状を打破するために、思考回路を根本的に組み変え、息の吸い方さえも変えなければならないと考える・・・[全文を読む]
◇続・18歳の読書論―図書館長からのメッセージ 晃洋書房, 2014年8月発行
◇新・18歳の読書論―図書館長からのメッセージ 晃洋書房, 2016年2月発行
◇19歳の読書論―図書館長からのメッセージ 晃洋書房, 2018年2月発行
◇20歳の読書論―図書館長からのメッセージ 晃洋書房, 2020年4月発行
◇大学1年生の読書論 ―図書館長からのメッセージ 晃洋書房, 2022年2月発行
いろいろなジャンルの読み応えのある本を紹介していきますので、少しでも気になる本が見つかったら、ぜひ読んでみてください。 また、みなさんからのおすすめの本の情報もお待ちしています。
【2020年6月】 コロナから見る世界―共存と侵略をめぐる問い―